【書評】『持続可能な魂の利用』松田青子 アニメ『少女革命ウテナ』放映から約20年。ウテナ的想像力を養分にしてアメリカで花ひらいたのがアニメ『スティーブン・ユニバース』なら、日本におけるそれは松田青子『持続可能な魂の利用』です。 『持続可能な魂の利用』(単行本)著者 : 松田青子価格 : ¥1650ISBN-10 : 4120053067ISBN-13 : 978-4120053061出版社 : 中央公論新社 (2020/5/19)発売日 : 2020/5/19 九七年放映の地上波アニメ『少女革命ウテナ』は様々な点で革新的な作品でした。寺山修司や宝塚歌劇などの舞台作品から影響を受けた奇抜な演出スタイル、閉鎖的で超現実的な学園空間など、その枚挙に暇はありませんが、20年以上が経ったいまさらにアクチュアリティを増しているのは、主人公ウテナと姫役アンシーの関係を通して描かれる、 女性二人による 男/女の二元的なジェンダー観への抵抗の物語でしょう。 米国の俊英アニメ監督レベッカ・シュガーは、十代で『ウテナ』を視聴したときの衝撃をこう語っています。 ウテナは私にとってひらめきでした。ジェンダーの記号と遊ぶ方法だ!って。“[Utena] was an epiphany for me. The way that it plays with the semiotics of gender.” https://www.denofgeek.com/tv/steven-universe-was-influenced-by-revolutionary-girl-utena/ ウテナが王子に救われた後、(王子に恋するのではなく)王子になりたいと決心するのが大好きです“I love that she (Utena) decides that after being saved by a prince that she wants to be a prince”https://www.denofgeek.com/tv/steven-universe-was-influenced-by-revolutionary-girl-utena/ シュガーが制作したアニメシリーズ『スティーブン・ユニバース』には『ウテナ』からの影響が随所に見られます。しかし、本稿では作中のマジカルチーム「クリスタルジェムズ」の面々のジェンダーを指摘するに留めます。(詳しく知りたい方はこちらなどを参照※英語)女性的な身体を持ちつつも性自認は曖昧で男性でも女性でもないクリスタルジェムズ。性の区別のない異星から来た「彼女」たちは、ウテナのように、しかしもっと自由に地球のジェンダーの記号と戯れます。彼女たちは男/女の二元的なジェンダー観を意図せずに解体しつつ、非二元的で多様な愛情関係を作り上げていくのです。 View this post on Instagram A post shared by Rebecca Sugar (@rebeccasugar) レベッカ・シュガーのインスタグラムより さて、このように『ウテナ』の未来にいるんだ、という実感の浮かぶ作品が、じつは本邦からも誕生しています。それが松田青子『持続可能な魂の利用』です。 「女の子が世界を革命する話です」 『持続可能な魂の利用』 松田青子 登場人物の一人が『ウテナ』を説明してそう言います。彼女の視線の先にいるのは本作の主人公である敬子。三十代、非正規雇用、東京で普通に生活する彼女は、正社員の男性から受けたとあるハラスメントの渦中で〈わたしのことを物のように見る、人間扱いしない〉「おじさん」の目に囲まれたことがきっかけで、現代日本は女性の「地獄」だったことに気がつきます。 彼女の言う「おじさん」とは特定の個人ではなく、一定以上の年齢の男性のことでもありません。この「おじさん」は女性を無力化し性的に消費する人たちであり、また女性から経済力/身体の自己決定権/自尊心を奪う人たちであり、さらにはそんな社会を支持する人たちのことまでも指しています。年齢やジェンダーに関わらないカテゴリです。 「おじさん」の作った「地獄」。魂のすり減るような現代日本の日常の実例を、敬子と友人たちはつぶさに観察し体験していきます。そんなある日、敬子は「推し」と電撃的な出会いをします。相手はあるトップアイドルグループのセンターである〈××〉。街頭ビジョン越しに〈媚びてない、なんてレベルではなかった。まるで世界に喧嘩を売っているよう〉な目に射抜かれ、彼女は一瞬でファンになります。 けれど敬子にとってそれはジレンマです。××をプロデュースしているのは「おじさん」たち。××の反抗的な意匠や歌、態度も「おじさん」が商品として認めたもの。そして日本のアイドル文化が女性搾取のシステムに依拠していることなども彼女はとっくに見抜いています。 アイドルを搾取し消費する構造などとっくにわかっているのに そう彼女は自問しますが、一方で同じ「地獄」で抗っている「同士」のように××を感じ、惹かれ、推し活(ファン活動)を続けていきます。 さて、物語には時々ある学園の日常が挿入されます。それは『ウテナ』のように閉鎖的な学園空間で、どうやら「未来」で、男/女の二元的なジェンダー観など遥か昔、女子学生たちがジェンダーの抑圧なしに生き生きと暮らすユートピアです。ある五人組が「過去」に存在した××について調べ、発表します。その発表は××論からアイドル論、制服論、そしてニッポンの男性論へと発展していくのですが――。 はたして敬子たちの受難と五人組の発表の行き着く先は。アイドル搾取ではない推し活の姿とは。それらが明かされる変革のラストへ向け、『ウテナ』的想像力とジェンダー視点のアイドル論をバネに跳躍する本書。巻頭にある『ウテナ』からの引用エピグラフと本編冒頭のキテレツな一文だけでも是非! 『持続可能な魂の利用』 Kindle版著者 : 松田青子価格 : ¥1568ASIN : B088NMKHM3出版社 : 中央公論新社 (2020/5/25)発売日 : 2020/5/25 ※価格は変動している場合があります。 他の書評 投稿ナビゲーション 【書評】『湖畔の愛』町田康【書評】『テスカトリポカ』佐藤究