【書評】『インディゴ』クレメンス・J・ゼッツ ドイツ語圏文学最高峰ビューヒナー賞をわずか38才で受賞! 神童ゼッツの初邦訳にして衝撃作『インディゴ』を800字でご紹介。おまけもあるよ。 『インディゴ』単行本著者 : クレメンス・J・ゼッツ価格 : ¥3520ISBN-10 : 433607089XISBN-13 : 978-4336070890出版社 : 国書刊行会 (2021/6/6)発売日 : 2021/6/6 読み終える頃には悪性の腫瘍に蝕まれているだろう、何度もそう思った。腫瘍の原因を放射しているのはこの小説ではない、人類の人間性だ。『インディゴ』はただその放射への感受性を高める。 インディゴ症候群を患って生まれる子どもたちがいる。彼らに接近する人はみな目眩、頭痛、吐き気、抑うつなどの症状に襲われる。インディゴチルドレンと呼ばれる彼らのための全寮制学校ヘリアナウ学園へ、新米教師のクレメンス・ヨハン・ゼッツが教員実習に訪れた。彼はやがて子どもたちが一人ずつ連れ去られていることに気がつく。 15年後、ヘリアナウ学園の元生徒ロベルト・テッツェルはある新聞記事を目にする。動物虐待者が異常な方法で殺された事件の容疑者が釈放された。その容疑者はゼッツ、かつて授業を受けたあの人物だというのだ。 ゼッツとロベルト、物語はこの二人を犠牲にして進む。そこに供犠の崇高さはない。目的化した動物実験の残酷さがある。 著者は主人公と同じ名のクレメンス・J・ゼッツ。《ポストモダン以降の文学の主流を正統に引き継ぐ》という、犬飼彩乃による訳者あとがきの紹介に違わず、読者は冒頭から世間並の小説にはない目眩と不安に曝されるだろう。二人のゼッツ、数多の引用、引用の捏造、複数の書き手、複数のフォント、猿みたいに飛び回る現代人の意識の対象(サブカルチャーコンテンツ)と世界文学への明示的/暗示的言及。 あなたはこの小説を読みながら気にかかった言葉をネット検索する。興味深い記事/写真/音楽/映像が見つかる。やがて主人公ゼッツの書いた文章、ロベルトの認知と思考、彼らが読んだもの、あなたの消費したコンテンツ、それらの間で〈干渉(インターフェレンツ)〉が発生し、あなた独自の〈神様なんでおれはこんな地獄にいるんだ感情〉が始まるだろう。 『インディゴ』は書物に納まらず、あなたの精神に侵出する。そのように書かれている。 おまけ 作中に登場する楽曲のYouTubeプレイリストを作成しました。読書のおともにどうぞ。 おまけ2(2021/9/12追加) 翻訳者の犬飼彩乃氏が、日本独文学会のウェブコラムにて「クレメンス・J・ゼッツ『インディゴ』訳本制作騒動記」を発表しました。企みに満ちた本書をより愉しむための情報でいっぱいです。 【コラム公開】日本独文学会ウェブコラム「クレメンス・J・ゼッツ『インディゴ』訳本制作騒動記」装幀やフォント、各ページの演出など変わった本の造りについて、オリジナルと比べながら書かせていただきました。ご笑覧いただければ幸いです。https://t.co/gS0TZieKg2— inukaiayano (@indigosyndrom) September 11, 2021 『インディゴ』Kindle版著者 : クレメンス・J・ゼッツ価格 : ¥2816ASIN : B098Q4KY5V出版社 : 国書刊行会 (2021/7/6)発売日 : 2021/7/6 ※価格は変動している場合があります。 他の書評 投稿ナビゲーション 【書評】『テスカトリポカ』佐藤究【書評】『星の時』クラリッセ・リスペクトル