【書評】『カミサマはそういない』深緑野分

2016年から2020年にかけて『小説すばる』に掲載された六篇に、描き下ろし一篇を加えた短編集。
各短編世界はミステリー・サスペンス、アメリカン・モダン・ホラー、近代日本的幻想掌編、ベケット的不条理、シニカル・コメディ、ディストピアSF、ジュヴナイル冒険物と、ヴァラエティ豊かに独立しているのですが、ここでは「もし雑誌『POPEYE』に男性学を意識した書評が掲載されたら」という想定の下、それぞれの作品で描かれる男性性に注目してご紹介します。


『カミサマはそういない 』単行本
著者 ‏ : ‎ 深緑 野分
価格 ‏ : ‎ ¥1540
ISBN-10 ‏ : ‎ 4087717674
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4087717679
出版社 ‏ : ‎ 集英社
発売日 ‏ : ‎ 2021/9/24


 深緑さんが描く7つの世界。スラスラ読めちゃうのに、ゾッとする暗がりもあって、そのまま読めばすぐ楽しめる。でも、ちょっと提案。今日はあえて男性学のモンダイ集として読んでみない? 高まりつつあるジェンダー意識に敬意を表して、なんて言うとカタクルシイ。けど、シティボーイはジェンダーにも敏感でなくちゃ。

 最初の「伊藤が消えた」はサービス問題。ハウスシェアしてた3人の男の子たちからひとりが消えた。残ったふたりの会話から、オトコノコグループのイヤなところが見えてくる。僕らはどんな価値観で仲間にシットし、モノを取り合い、グループ内の優劣を決めるだろう。ここに書かれてるのは「男性」のモンダイだって、きっとすぐにピンと来るはず。

 続く「潮風吹いて、ゴンドラ揺れる」も、これぞオトコノコグループのうす暗いとこって感じ。海辺のさびれた遊園地、おなじみの観覧車で目をさます十四歳の〈〉。どうしてここに? なんで誰もいないの? 辺りを探ると、うわ、死体! 謎の死体に続いて僕を手下みたいに扱ういじめっ子3人の死体も見つかり、しかもピエロが襲ってきて……。

 実は、この物語でほんとうに怖いのはピエロじゃない。これは、オトコノコたちの「処世術」が生むものの怖さを教えてくれるお話。加害的なグループに関わってるオトコノコはグループ内での地位を得るために別の犠牲者を差し出すことがある。そういうとき、そのコは自分の加害性に無自覚で、ヒドイと思わなかったり忘れちゃったりしがち。オトコノコのそういう傾向と、好きな子のことすらモノみたいにしか見れない価値観とが合わさって、印象深いホラー作品になってるんだ。

 男性学モンダイ集としての難易度は次の「朔日(ついたち)晦日(つごもり)」からグーっと加速。この幻想的な小品の〈〉はまだ子ども。ある夜から兄の左目がおかしくなって、へんなモノが見えると言い出した。かまどには小人、木陰には小さなおばあさん、《これはじいさまじゃ、亡くなったじいさま》と手のひらにとって見せてきたのはナメクジで、おどろいた僕はそれをはたき落としてふみつぶしちゃう。兄を変にするコワい「目」だけど、本人はなぜだかお気に入り。実はその目は「カミサマ」のもので、やがて返さなきゃいけない日がやってきて……。

 質問。フツーのオトコノコと違うようにモノが見えるのって、ワルいことだっけ? キモいからってふみつぶしちゃうのは暴力的すぎない? もしかしたらこのあとの短編を読むのに、こういう、穏やかで小さなものを愛でる「オトコノコっぽくない」目が必要ってことかも。

 続く三作品にはオトコノコの価値観や行動が、周囲の男性や社会との関係から作り上げられてくトコロが書かれてる。「見張り塔」の〈〉はどこかの国の少年兵。一年以上孤立してる戦場の、とってもマジメなスナイパー。この僕の経験を通して見えてくるのは、「エラいオジサン」たちが作るシステムのバカバカしさと、オトコノコたちがそこから逃げることのムツカシさだ。

「ストーカーVS盗撮魔」はちょっと笑えるかも。他人のSNS投稿を分析して居場所を突き止めるのが趣味の〈〉。次のターゲットの住まいへ向かうと、あれ? アパートを盗撮してるヤツがいる。こいつがいるとジャマなんだけど!

 この短編は、最後まで読むとアベンジャーズみたいなヒーローチームに憧れるオトコノコへの皮肉になってる。特殊能力をもった人間が、その能力ゆえに事件に巻き込まれ、他の能力者や組織と出会い、使命や責任に目覚めてく。これはおなじみの物語展開だ。でも、出発点になる能力がストーキングや盗撮だったらどうだろう? ヒーローチームを生む物語の要素がそのまま別の集団を生んでいく。ストーカー事案の加害者の8割超が男性だなんてのは説明するまでもないよね。

「饑奇譚」は悲しいお話。アジアンテイストのディストピアでタイムリープする優しいオトコノコが、身内を破滅させたという罪悪感のために、他人をケアする優しさを捨てることを自分から選んじゃう物語だから。でも、オトコノコがそれを選んだほんとうの原因はなんだろう。それを考えるためのヒントを深緑さんはひっそりと、でもしっかりと書いてくれてる。ここまで読んだ僕らなら、絶対にそれを見つけ出せるはず。

 最後の「新しい音楽、海賊ラジオ」は希望の一篇。陸地のほとんどが海に沈み、政府が娯楽の内容と配信量までも極端に管理・制限する社会。そこで暮らす16歳の〈〉は、ある日、未知の音楽を流す野良ラジオ放送のうわさを聞いた。さあ、新しい音楽を探す冒険の旅へ! 宝物は自分で手に入れるんだ。

 総仕上げモンダイ。この短篇を読み終わったら2番目の「潮風吹いて~」と比べてみよう。海、3人組、手下、ヒロインと、共通の要素に気がつくはず。でも読み心地や彼らの運命、とくに被害者の有無はぜんぜん違う。オトコノコたちのなにが違いを生んでるんだろう。それについてじっくり考えてみるなんてのはどうかな。オトコノコグループにはいいトコロだってたくさんあるんだよね。


『カミサマはそういない』 (集英社文芸単行本) Kindle版
著者 ‏ : ‎ 深緑 野分
価格 ‏ : ‎ ¥1540
ASIN ‏ : ‎ B09GRFYNZQ
出版社 ‏ : ‎ 集英社
発売日 ‏ : ‎ 2021/9/24

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